プロジェクト2019



プロジェクト2019を振り返る


哲学研究

1) 免疫に関する思索の跡を纏める。

このプロジェクトは現在も進行中である。当初は今年中に何とか纏めたいと考えていたが、纏めれば纏めるほど欠けているところが見えてくるため、満足できるところまで続けるという方針に変ってきた。ただ、来年には現在における考えが纏まるのではないかという感触は生まれている。

2) 認識・記憶についての省察を深める。

これは1)のプロジェクトとの関連で生まれたものである。昨年から今年にかけて一つの思想の塊が現れたので、専門家の目にはどのように映るのかを問うことにした。このような気持ちになったのは、哲学の道に入ってから初めてのことである。幸い以下の論文が受理され、この論文についてのコメントに対するコメントも求められた。

Yakura, H. A hypothesis: CRISPR-Cas as a minimal cognitive system. Adaptive Behavior 27: 167-173, 2019

Yakura, H. Response to Fred Keijzer’s comments. Adaptive Behavior 27: 179-180, 2019

その結果、一つの考えをさらに明確に自分の中に位置づけることができるようになり、それから先の進め方に関するヒントを得、あるいはそれまで気付かなかったことに目覚めたりするという経験をしてきた。これからも何かアイディアが浮かんだ時には専門家の意見を聞くという作業に移ることが欠かせないと考えるようになっている。


翻訳

1)パスカル・コサール著(拙訳)『これからの微生物学』(仮)の3月刊行を目指す。

この本は『これからの微生物学ーーマイクロバイオータからCRISPRへ』というタイトルで3月23日にみすず書房から刊行され、予定通りプロジェクトを終えることができた。


日仏文化交流

1)パスカル・コサール博士(パスツール研究所教授)の講演会の実現に努める。

このプロジェクトは、11月12日に国立国際医療研究センター(NCGM)で開催された日仏セミナー 「これからの微生物学―我々は微生物といかに付き合うべきか?-」 で実現した。プログラムは、コサール教授の基調講演「病原菌リステリアと歩む《これからの微生物学》への旅」に続き、大曲貴夫博士(NCGM国際感染症センター長)による講演「我が国の医療分野における薬剤耐性(AMR)の状況と対策」と臼井優博士(酪農学園大学獣医学群准教授)による講演「動物分野と医療分野の薬剤耐性(AMR)の問題のつながり」が行われ、最後に渡邉治雄博士(国際医療福祉大学大学院教授)が座長となり、講演された3名が加わって「薬剤耐性(AMR)克服のための世界連携」についてのパネルディスカッションがあった。このセミナーは、日本パスツール財団とNCGMの共催の下に実現したもので、ここに感謝の意を表したい。


定常的活動

1) パリカフェ、サイファイ・カフェSHE、カフェフィロPAWL、ベルクソン・カフェの開催

当初の計画では春と秋に開催する予定であったが、春のカフェフィロPAWLと秋のすべての会は主宰者の都合により中止になった。行われた会は以下の通りである。

 第2回サイファイ・カフェSHEパリ(2019年1月11日)
  Penser le problème de la "cognition minimale"(最小の認識を考える)

 第7回サイファイ・カフェSHE札幌 (2019年3月23日)
  植物の生について考え直す

 第14回サイファイ・カフェSHE(2019年4月12日)
 「技術」(テクネ―)から現代を考える

 第5回ベルクソン・カフェ(2019年5月21日、28日)
  Pierre Hadot « Apprendre à lire » (ピエール・アドー「読むことを学ぶ」)
  Exercices spirituels et philosophie antique(Albin Michel, 2002) pp. 60-74(『魂の鍛錬と古代哲学』)

2)サイファイ・フォーラムFPSSの開催

現在の形式について再検討してはどうかという助言があったので、春に賛同者の意見を伺った。その結果、当分の間は賛同者、参加者に話題提供をお願いすることとして、以下のように春と秋の2回開催した。また秋には、これからの形式についての提言があり、来年からは毎回主宰者による話題提供を行った後、これまで通り2名の方の発表について議論するという形式を採ることにした。

第5回サイファイ・フォーラムFPSS (2019年5月18日)

 話題1)林 洋輔:「生き方としての哲学」はいま可能か:Pierre Hadotの「読むことを学ぶ Apprendre à lire」と学問の古典

 話題2)阿戸 学:現役科学者にとって哲学することは可能なのか

第6回サイファイ・フォーラムFPSS (2019年11月9日)

 話題1)武田 靖:科学と技術の本質的な違いについて―実践者の立場から

 話題2)武田克彦:神経心理学における意識について


上記カフェ並びにフォーラムに参加された皆様に改めて感謝いたします。来年もご協力のほど、よろしくお願いいたします。


3)以下のプロジェクトを例年通り進める。

●「医学のあゆみ」のエッセイ執筆

今年も月1回のペースで以下のエッセイを書くことができた。

(75) シンポジウム「医学における人間」で、現代医学の課題を考える
医学のあゆみ 268 (2): 166-170, 2019

(76) 日常性と精神性のバランス、あるいはいま蘇るべき古代哲学の伝統
医学のあゆみ 268 (6): 536-540, 2019

(77) 病気とコスモポリタニズム、あるいは生の規範の作り変え
医学のあゆみ 268 (10): 884-887, 2019

(78) CRISPR-Cas、あるいは免疫系と神経系を結ぶもの
医学のあゆみ 269 (2): 179-183, 2019

(79) CRISPR-Cas、あるいは「獲得形質の遺伝」を再考する
医学のあゆみ 269 (6): 506-509, 2019

(80) 科学とメタファー、あるいはプラトンにとっての医学
医学のあゆみ 269 (10): 830-833, 2019

(81) ハイデッガーによる人間存在、あるいは「真の人間に成る」とは
医学のあゆみ 270 (2): 211-214, 2019

(82) エドワード・O・ウィルソン、あるいは生物界における利他主義
医学のあゆみ 270 (7): 586-590, 2019

(83) リュシアン・ジェルファニョン、あるいは「古代に生きる」ということ
医学のあゆみ 270 (11): 1099-1102, 2019

(84) 哲学者ミシェル・セール、あるいは「橋を架ける」ということ
医学のあゆみ 271 (2): 226-230, 2019

(85) 生物における情報の流れ、あるいは情報の定義は可能なのか
医学のあゆみ 271 (6): 625-629, 2019

(86) 形而上学とは、そして科学におけるその役割を再考する
医学のあゆみ 271 (11): 1255-1258, 2019

● パリ・カイエの解析

このプロジェクトには具体的な計画性はなく、今年そこから何らかの発見があったということはなかった。息長く、折々に読み直すという作業を続けることになるだろう。

● 倫理、形而上学についての省察 

このプロジェクトは、この二つの領域についてどこかで意識しておくようにという自分に対する言い聞かせのためにリストアップした。振り返れば、「医学のあゆみ」のエッセイ(81)「 ハイデッガーによる人間存在、あるいは『真の人間に成るとは」及び(86)「形而上学とは、そして科学におけるその役割を再考する」において形而上学について、さらに倫理については(75)「シンポジウム『医学における人間で、現代医学の課題を考える」及び東京理科大での生命倫理に関する講義などにおいて省察が行われていたことが明らかになった。


講演

1) “Immunity and cognition”  École normale supérieure, Paris, France (2019年2月14日)

2) 「免疫から認識を考える」 公開講座 『ルカーチの存在論』、東京(2019年4月20日)

3) 「免疫を哲学する」 第190回日仏生物学会例会 特別講演、東京(2019年6月8日)


講義

1)「生命倫理私論」 東京理科大学・生命医科学研究所 生命倫理講義(2019年10月9日)


(2019年12月16日)





ISHEプロジェクト2019

哲学研究

1)免疫に関する思索の跡を纏める。
2)認識・記憶についての省察を深める。


翻訳

1)パスカル・コサール著(拙訳)『これからの微生物学』(仮)の3月刊行を目指す。


日仏文化交流

1)パスカル・コサール博士(パスツール研究所)の講演会の実現に努める。


定常的活動

1)サイファイ・カフェSHE、カフェフィロPAWL、ベルクソン・カフェの開催

  これまで通り、春と秋に開催する。
  現在予定が決まっているのは、以下のカフェである。
  
  ● 第2回パリ・カフェ(サイファイ・カフェSHEパリ)
   「最小の認識を考える」(2019年1月11日、18h~20h)

2)サイファイ・フォーラムFPSSの開催

  現在の形態より外に開かれた活動も織り込んでいく。
  例えば、外から研究者を呼んでの意見交換や公開シンポジウムの開催など。
  賛同者を交えてその形態を議論し、実現していく。

3)以下のプロジェクトを例年通り進める。

  ●「医学のあゆみ」のエッセイ執筆
  ● パリ・カイエ(62冊)の解析
  ● 倫理、形而上学についての省察 


講演

1)2019年2月14日(木): Immunity and cognition. École normale supérieure, Paris
2)2019年4月20日(土): 免疫から認識を考える. 公開講座『ルカーチの存在論』、東京


(2018年12月23日)