プロジェクト2018



プロジェクト2018を振り返る

哲学研究

1)『免疫の形而上学』(仮)の完成を目指す。

このプロジェクトを進める中で、このように大きなテーマを扱う場合には、いつまでに完成を目指すという性質のものではないということに気付いた。したがって、現在考えていることをできるだけ目に見える形にするように努めるという方針に変わってきた。それができたと感じるまで続けることになるので、現段階では来年も継続されるということしか言えない。

2)ミニマル・コグニションに関する考察を深める。

ミニマル・コグニションとは、どのような機能までを認識能と言うのかという問題である。免疫の本質を観想する中で、この問題は免疫における考え方が応用できるのではないかということに気付き、講演やわたしが主宰するカフェの中で一つの仮説として提唱してきた。ただ、この仮説を専門家がどう見るのかを確かめる過程が欠けていたので、今年は論文として纏め、評価を仰ぐということを久しぶりにやってみた。その過程で、このように内発的な動機から論文を書くのは理想的なスタイルではないかという思いが浮かんだ。幸い、一つの雑誌がわたしの仮説を掲載してもよいという結論を出してくれた。興味をお持ちの方はお目通しの上、ご批判をいただければ幸いである。来年1月11日(金)のパリカフェでもこのテーマを取り上げる予定である。こちらへの参加もお待ちしております。

Yakura, H. A hypothesis: CRISPR-Cas as a minimal cognitive system. Adaptive Behavior. First published online: December 29, 2018. <accepted version> https://doi.org/10.1177/1059712318821102

3)Metaphysics of Immunity(仮)の執筆を始める。

これは、日本語版が今年中に完成したことを予想してのプロジェクトであった。1)に記したように、これは来年以降の課題になる。

4)ピエール・アドー著『魂の鍛錬と古代哲学』(Exercices spirituels et philosophie antique, Albin Michel, 2002)の解読をベルクソン・カフェと共に進める。

今年はベルクソン・カフェで二つのエッセイを取り上げることができた。一つは「対話することを学ぶ」で、もう一つは「死ぬことを学ぶ」である。この本を読み切るには暫く継続しなければならない。広く「生き方としての哲学」に関連する思索の跡を研究するとすれば、この本に限る必要もないかもしれない。

5)マルセル・コンシュ著『形而上学』(Métaphysique, PUF, 2012)の解読を長期プロジェクト「形而上学についての省察」の一環として行う。

このプロジェクトの進捗は特になかった。形而上学というようなテーマを考えるためには、所謂仕事から解放され、広大な包み込むような思考空間が準備されなければならないが、今年はそれができなかったということだろう。当初の予定通り、長期的なプロジェクトとして捉えて行きたい。


翻訳

1)フィリップ・クリルスキー著『免疫の科学論ーー偶然性と複雑性のゲーム』の夏までの刊行を目指す。

当初の予定通り6月18日にみすず書房から刊行することができた(みすず書房のサイト)。生体防御や生命に興味をお持ちの方には是非お読みいただきたい内容となっている。お手に取っていただければ幸いである。

2)パスカル・コサール著『これからの微生物学』(仮)の2019年刊行を目指す。

このプロジェクトは2019年3月の刊行を目指して現在校正中である。


日仏文化交流

1)日仏友好160周年に当たる2018年、フランス人科学者を招いての文化講演会の実現に努める。

このプロジェクトはクリルスキー博士の訳書の刊行に合わせて講演会と日仏の科学シンポジウムを日本パスツール財団主催で開催することができた。当研究所も協賛として関与した。会の様子は以下のレポートで垣間見ることができるだろう。今後も可能性を模索しながらこのような会に関わって行きたい。

矢倉英隆: フィリップ・クリルスキー著『免疫の科学論ー偶然性と複雑性のゲーム』と「免疫と感染症に関する日仏セミナー」で考えたこと.医学のあゆみ(2018.7.28)266 (4): 313-316, 2018


定常的研究

1) サイファイ・カフェSHE、カフェフィロPAWL、サイファイ・フォーラムFPSSの開催

今年は以下の会を開催した。

サイファイ・カフェSHE
 
第13回 2018年6月15日(金) 「『テアイテトス』に見るプラトンが考えた科学」  

サイファイ・カフェSHE札幌
 
第5回 2018年6月2日(土)「最小の認識能をどこに見るのか
第6回 2018年10月27日(土) 「ハイデッガーとともに『技術』を考える
(技術の問題については、10月10日に東京理科大学の生命倫理の講義でも取り上げた)

カフェフィロPAWL

第7回 2018年6月8日(金) 「トルストイの『人生論』から生き方を考える

サイファイフォーラムFPSS

第3回 2018年6月30日(土) 会の詳細はこちらから
第4回 2018年11月17日(土) 会の詳細はこちらから


2)「医学のあゆみ」の連載エッセイ『パリから見えるこの世界』の執筆

(64) 啓蒙主義と反啓蒙主義、あるいは我々を分断するもの
 医学のあゆみ (2018.1.13)264 (2): 202-206, 2018

(65) 瞑想生活から省察生活へ、あるいは新しい内的均衡への移行 
 医学のあゆみ(2018.2.10)264 (6): 562-566, 2018

(66) プラトンの『パイドン』、あるいは魂の永遠を考える
 医学のあゆみ(2018.3.19)264 (10): 930-934, 2018

(67) パウル・カンメラーとウィリアム・サマリン、あるいは科学を歪めるもの
 医学のあゆみ(2018.4.14)265 (2): 182-186, 2018

(68) 翻訳という作業、あるいはエドゥアール・グリッサンという作家
 医学のあゆみ(2018.5.12)265 (6): 539-543, 2018

(69) ハンス・ゲオルク・ガダマー、あるいは対話すること、理解すること
 医学のあゆみ(2018.6.9)265 (10): 911-915, 2018

(70) 静寂と沈黙の時間、あるいは自己を自己たらしめるもの
 医学のあゆみ(2018.7.14)266 (2): 184-187, 2018

(71) 最初の外科医アンブロワーズ・パレ、あるいは癒しの哲学と驚くべき活力
 医学のあゆみ(2018.9.8)266 (10): 815-819, 2018

(72) 反骨の医者パラケルスス、その自然哲学と錬金術
 医学のあゆみ(2018.10.13)267 (2): 176-180, 2018

(73) 風土と人間、あるいは土地を選ぶということ
 医学のあゆみ(2018.11.10)267 (6): 488-492, 2018

(74) ハイデッガーによる「テクネー」、あるいは技術から現代を考える
 医学のあゆみ(2018.12.8)267 (10): 800-804, 2018


3) パリ生活8年で書き溜めたカイエ62冊の解読

このプロジェクトは、折に触れて当たるという感じで進めている。


4) 免疫、記憶、生命、倫理、形而上学についての省察

これらのテーマはいずれも大きなものなのでゆっくり進める以外にはない。上記「哲学研究」1)にあるように、この中では免疫に重点を置いて進めてきたが、来年もそうなるだろう。

 (2018年12月7日、29日)
 




ISHEプロジェクト2018

2018年は以下のようなテーマの下、活動する予定である。


哲学研究 

1) 『免疫の形而上学』(仮)の完成を目指す。

2) ミニマル・コグニションに関する考察を深める。

3) Metaphysics of Immunity(仮)の執筆を始める。

4) ピエール・アドー著 『魂の鍛錬と古代哲学』(Exercices spirituels et philosophie antique, Albin Michel, 2002)の解読をベルクソン・カフェと共に進める。

5) マルセル・コンシュ著 『形而上学』(Métaphysique, PUF, 2012)の解読を長期プロジェクト「形而上学についての省察」の一環として行う。<コンシュ・メモ


翻訳 

1) フィリップ・クリルスキー著 『偶然性と複雑性のゲーム』(仮): 夏までの刊行を目指す。

2) パスカル・コサール著 『新しい微生物学』(仮): 2019年の刊行を目指して夏以降校正を始める。


日仏文化交流

1) 日仏友好160周年に当たる2018年、フランス人科学者を招いての文化講演会の実現に努める。


定常的活動 

1) サイファイ・カフェSHE、カフェフィロPAWL、サイファイ・フォーラムFPSSの開催

2) 「医学のあゆみ」の連載エッセイの執筆

3) パリ生活8年で書き溜めたカイエ62冊の解読

4) 免疫、記憶、生命、倫理、形而上学についての省察


(2017年12月10日)