1.9.11

エルンスト・マイヤーさんが語る 「生物学が特別な訳」


What Makes Biology Unique? (2004)
by Ernst Mayr


近代科学が誕生して以来、19世紀に至るまでの数世紀に亘り科学の中心を占めていたのは物理学である。そのため、科学を哲学的に分析する時の対象は物理学であった。生物学が力を増してくる20世紀になっても、物理学を見る時に使った枠組みで生物学を見る傾向が強かった。しかし、次第に物理学の視点からでは説明のできないことが生命現象では起こっていることが指摘されるようになり、生物学の哲学が生れることになった。その流れの中で大きな足跡を残した人に、エルンスト・マイヤーさんがいる。

エルンスト・マイヤーErnst Mayr、1904年7月5日 - 2005年2月3日)

先ず気付くことは、100歳の長寿を全うされたこと。しかもその生は亡くなるまで燃焼し尽くされたことである。ハーバード大学を退官後の30年余りの間、現役時代に勝るとも劣らない旺盛な執筆活動を行った。今日取り上げた著作は2004年に出版されているので、亡くなる1年前の100歳の時のものである。これがマイヤーさん最後の作品になった。

最後の著作では難しい言い回しを使うことなく、生物学と物理学の違いを指摘すると同時に、生物学の哲学で扱う基本的な概念を解説している。そこには哲学者の問題意識をも批判的に見る生物学者としての揺るがない視点があり、科学の側にいた者にとっては参考になることが多い。アマゾンで日本語訳を探したが、まだ訳されていないようである。非常に簡明な英語で書かれているので、興味をお持ちの方は一読の価値があるのではないだろうか。



100歳のマイヤーさん

(2011年10月7日)